座談会一覧

開成が出題する現代的なテーマ

国語座談会第1回 下

性の多様化、認知症など現代的なテーマも今後は出題される

 2018年開成中の入試問題を取り上げました。第1回上はこちら。第1回中はこちら

:今後、現代的な意味で出題されそうなテーマにはどのようなものがあるのでしょうか。

H先生:性別について。15年前だったか、栄東で魚住直子の『超・ハーモニー』という物語が出たことがあって。兄が女性になったという衝撃的な展開があるんですが、入試で使われている部分でははっきり説明されていなかった。まだ、そういう時代だったのだと思います。当時はマツコ・デラックスもテレビに出ていないわけですし。

O先生:使う側がどこまで入れるかという点もあります。いろいろなテーマで、ぎりぎりのところまで来ている。これ以上、超えてしまうと学校側として入試問題を学校の顔として出せるかどうか。こんなのを読ませるの、と思われそうなところまでは踏み込まないのではないかとも思います。

H先生:なぜこれを出したのか説明できない描写とか状況があるとアウトになるのかな、と。

O先生:暴力的なことは世間でも厳しく見られていますし、それを出すと学校側も批判されそうですし。

H先生:ほかに、認知症についてもより出てくるのではないでしょうか。お年寄りはこれまで賢くて優しい存在として描かれることが多かった。でもこれからは、守り、支えていくという対象になっていく。視点の転換があるように思います。今年栄光学園と明大中野で出た『奮闘するたすく』とか。

Y先生:これも、まはら三桃。

素材や背景は大きく変わってきたが、普遍的なテーマが出されている

G:では、最後にまとめていきたいと思います。

O先生:開成ではここ2年素材は違いますが現代的な素材の物語が出ています。専業主婦が定番だった中で、家族のありかたは多様化していますが、居場所がなくなって疎外感を感じるとか劣等感があって、その悩みを乗り越えていくという点では何度も出てきた内容です。素材自体は多様化していますが、普遍的なテーマは同じなんじゃないかと思います。人間の悩みがあり、それを乗り越えて解決していくという。そういうとらえ方をしています。

:具体例が以前の開成でもあれば教えてください。

O先生:今回はお母さんの悩みでしたが、子供だったりもします。典型的なのは2002年の『飼育する少年』。

:どんな話ですか?

O先生:空想の世界ですが、背が低くて何もできないことに劣等感を持つ子が、公園でキリンと出会い、親に内緒で一人で何とか育てていくうちに自信もついていく話ですね。

M先生:2002年の開成と言えば、科目別平均点と初めて公表した年じゃなかったかな。国語の合格者平均点も5割と低く、難しいのはもちろんだけど、これだけみんな解けなかったと思った記憶がある。

:「新学習指導要領」でいわゆる「ゆとり教育」が始まった年ですね。

M先生:そう。開成がほぼ全問を記述問題にして、大転換を果たしたのが2001年ですし、「量ではなく質」という社会情勢に合わせて形式を大幅に変更したあたりです。

O先生:ほぼ全問記述という形式自体はそこから今も変わっていません。

Y先生:普遍的という点では、今回の開成では、自覚していない、家族のある人物より自分が上だと思う気持ちに、状況が変わり客観視して気づいていくというところがある。それは他校でも出ていて、駒場東邦の2016年でも「戦争後に翻弄されている中で姉が自分のために奮闘することを当たり前だと思っていたことに、隣人の帰国を機に、主人公がはっと気づく」とか。その辺というのはテーマとしては普遍性を持ちうるのかなと思いました。

H先生:やっぱり普遍的なテーマの引き出しをたくさん持っている子は強いですよね。よく「国語は同じ話が出るわけじゃないから」といいますが、授業でも過去問でも問題だけ解いて事足れりとしてしまうのはすごくもったいない。理想論かもしれませんけど、文章自体もじっくり読み込んでほしいと思います。まあこれは自戒を込めて言っているわけですが。

M先生:家族のあり方とか性差に対する考え方とかSNSとか、時代背景によって使われる素材は違うのに、実は同じテーマというのは確かにあって、授業でも「ほら、あの話と共通性があるでしょ」とか、「あの話の主人公と同じ気持ちだよね」と伝えるようにしています。そういうつながりみたいなものを感じ取れるようになる子にさせたいな、と思います。

:今日はありがとうございました。

※国語座談会第1回はこれで終了です。第2回は8月初旬に公開予定です。

書籍紹介

『奮闘するたすく』

まはら三桃
 
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