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国語の総合力、論説的な要素も敢えて物語文で問い続ける

国語座談会第2回 上

排除ではなく理解 対立ではなく協同 麻布国語のメッセージ性

G それでは座談会を始めます。今回はK先生チョイスの2018年の麻布ですね。まず、どんな話 か簡単に紹介してください。

K先生 はい。2018年の麻布は、言語も種族も違う登場人物が4人いて、言葉は通じないんですけど、互いに協力しながら作りたかった自転車を作っていくという話です。今回、取り上げさせていただいたのは、これまで個人に焦点のあたった誰かが成長をとげていくという話が多かった中で、4人が互いに足らないところを補いながら成長していくというところが面白かったからです。

 いわゆる、マイナスからプラスに変わる、変化の物語ということですね。よく出題されるパターンのようでもありますが。

K先生 マイナスからプラスになるという点ではオーソドックスだけれども、テーマとしては新しいな、と。足らないところを認めて、それをお互いに補っていく話だったので。

Y先生 最初は不和というのであれば、そこから友情を育んでいくとかいうのはよくありますが、協同というところまでは。

H先生 強いて言えば、『世界地図の下書き』。欠落を抱えた子どもたちが集まって協力していく話でした。

M先生 僕が好きな本です。早稲田の書店で、これは中学入試に出る、と思ったのを覚えています。今回の麻布に関しては、民族間の対立だとか、ヘイトスピーチだとか、そういうのが社会問題としてあるからこそ、分かりあっていくことの大切さをテーマにしたのかな、と。言葉は通じないんだけれども、お互い協力していく大事さを伝えたいのかなと思いました。

 メッセージ性があるということですね。麻布社会でも、ヘイトスピーチに関するものは出題されていました。

H先生 今回の麻布では、仲間はいるけれどもよく知らないし、知りたいと思わないし、近づきたいとも思わない。最初はむしろ嫌いだとも言っていた。ある意味、言葉の通じない人に対する距離感と言い換えることもできますよね。捉え方の広がりはいくらでもある。

 

自由とは何か 自由によってもたらされる不自由 麻布国語のメッセージ性

 麻布と言えば、物語文ですよね。テーマは現代的だけれども、マイナスからプラスに変わっていくという点では普遍なのでしょうか。

H先生 必ずしもそうとは限りません。そう思わせておいて希望を打ち砕くようなものもありますよ。2012年の『木登り牛』とか。

M先生 あれは、一般的な「成長物語」というよりは自由の話ですよね。

H先生 そうですね。成長というよりは社会ってこんなもんだよっていう冷笑的に見るような感じです。自由というのは大事だし、素晴らしいものだし、夢見るものなんだけど、本当の自由なんてこの世のどこにもないんだ。自由を手に入れるには、不自由も甘んじて受けなければならないという話ですね。

M先生 確かに、自由はいいものと一見思わせておいて、そんな簡単な話じゃないよ、と。あの文章には学校の校風が現れていますよね。

一同 そうそう。

K先生 麻布は、やっぱり自由と言われる。文化祭とかのイメージもあるでしょう。だからこそ、の文章です。

O先生 最初見たとき、これは強いメッセージ性があると思いました。自由に伴うマイナス面というか、責任があるというか、縛られるというか。

M先生 麻布は自由な学校と言われるけど、そこには責任を伴うよ、不自由さを伴うよ、ということ。いい文章でしたよね。

H先生 それが分からない奴は自由を手に入れなくていいというメッセージ感じますよね。

一同 (頷く)

Y先生 1990年の麻布中で出された『子供のいる駅』は希望を打ち砕く、とまで言えるかはともかく、オーソドックスな展開ではありませんでした。一人で家を出て、出かけていこうとするのですが、途中で切符がないことに気づいて。

O先生 幻想の世界に入っていく。

Y先生 そうなんです。そのまま外に出ていけなくなっちゃって…。

H先生 そうやって帰れなくなった子どもたちが集う、人には見えない空間があるんですよね。

O先生 それにしても、かなり昔の問題ですよね(笑)。そういう残酷な事実をつきつけるような物語は麻布ではありますよね。

M先生 1995年の『ミラクル』じゃないですか。残酷な事実をつきつけるというのなら。お母さんがいないという事実を、お父さんが息子に伝えるかどうかの葛藤。

H先生 たまには2008年の『循環バス』みたいな易しいというか読みやすいものもあるんですけどね。でも、あんまり続かなくて、残酷なものが来て、私なんかは「来た来た」と思ってニヤッとするんだけど、生徒がそういうのにあたると、難しいとなりますよね。

 

麻布・駒場東邦・武蔵・早稲田に出題された 井上ひさし『あくる朝の蝉』

O先生 言葉は通じないけれども、新しい世界を見たから味わわせたい。そういう点ではこれまでの共通したものを今年の麻布には感じました。これから新しい世界に入っていく中で勇気をもってチャレンジしてほしいというメッセージ性のような。設問で実際、そんな選択肢があるんですよ。

 問いのいくつですか?

O先生 問12ですね。「なぜ私はちびに自転車を作ろうと思ったのですか」というのがあって、自分が知った新しい世界を共有したい、相手にも味わわせたいということを読み取る問題です。

Y先生 みんなの関係が変わるきっかけとなった子はまだ小さくて、みんなで作った自転車はサイズの問題でこぐことができない。その子にもこげる自転車を作ると、味わった新しい世界を本当の意味で共有していける、ということですね。

 年下ということですか?

O先生 年下です。

H先生 それで言えば、『あくる朝の蝉』も、守るべき小さい弟がいて、そういう守るべき存在がいることによって自分が強くならなければならないというのはありますね。初めて読む子には、話がパッとつかめなかったとしてもそういう視点で読んでほしいですね。

K先生 井上ひさしの『あくる朝の蝉』は、2011年に麻布でも出ましたが、最近武蔵でも出ましたね。

Y先生 1995年には駒場東邦でも出されていますね。2010年の早稲田でも。

O先生 井上ひさしが亡くなったとき、追悼という意味でもまた出題されるようになりました。桜蔭でも。

H先生 桜蔭は2011年の『少年口伝隊一九四五』ですね。戯曲です。戦争のものですね。広島の原爆の。

書籍紹介

『世界地図の下書き』

朝井リョウ
 

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