国語座談会 第1回 中
予定調和ではなくなり、展開をパターン化できないものが増えている
2018年開成中の入試問題を取り上げました。第1回上はこちら。
H先生:今年の開成では、お父さんが絵を描いていてそれが認められそうになるんですね。その時に、主人公の妻が「絵なんて売れないで、私と息子のそばにいて」と思ってしまう。また、お父さんが個展のために使う費用を「出してあげる」と言った後で「それは不遜じゃないか」と自問自答する。お母さんが言うからあれっと私たちは思うのであって、お父さんが言えばわりと普通のことなんですよね。ちょっと古いですが2008年の聖光学院で出た『卵と小麦粉それからマドレーヌ』。お母さんが料理の勉強をしたくてパリに行きたい、おばあちゃんは家庭があるのにといって反対する。夫と子供は戸惑いを持つんだけれど応援するんです。このお母さんは、子供が大きくなって子育てが一段落したから留学するんですが、これまでお母さんは家事育児を放棄するタイプが出なかった。それで授業で今年の開成の話をすると‥。
G:すみません。ちょっと長いので一度区切ります。要は、これまでの中学受験での「お母さん像」は働いたり夢を追い求めても、家事育児はやった上でだった、ということですね。
H先生:そうです。今年の開成の話を生徒にすると、「そのお母さん、ダメじゃん」という反応が返ってくるんです。この文章でも、もし主人公がお父さんだったらバリバリ仕事をしていて、料理もできない、フライパンの場所もわからないって違和感を持たないと思うんですよ。なぜお母さんだと違和感があるのか、そういうところを家庭で話題に出してもらえると深まっていくと思います。子供は自分の家しか知らないから。授業ではどうしてもオーソドックスな家庭を扱うことが多くて、それこそ重松清とか使っていっぱい教えていくけれども、今はそれだけが正しいというわけではないということを私たちも言っていかないといけないと思うんです。自分の置かれた状況と違っても、「えっ?」と拒否しないで、受け容れて人物の心に添っていく共感力が試されているのだと思います。
O先生:家族のあり方も多様化していて、男性はこうである、女性はこうであるという固定観念で読まないようにしないと。
G:そういう先入観で読んだら失敗しますよね。
M先生:ベクトルを間違えると、大きく失点しますからね。
H先生:2012年に駒場東邦で出された『ダリアの笑顔』。お母さんが仕事をはじめて夕食をつくらなくなったら子供がさびしい思いをして、お父さんが「お前が仕事をするからじゃないか」と怒る。それが家族像のスタンダードだったと思います。
M先生:その頃は過渡期だったんじゃないですか。女性の社会進出という点で。だからそういうことで出てきた葛藤が入試でもよく出された。6年経って、出される文章の質も変わってきたのだと受け止めています。
O先生:家族像に限らず、予定調和な物語というのが使われなくなっていて、つまり展開をパターン化できない。成長していくんだ、というようなよくある物語の読み方にそって読むと全然わからなくなっていく。
H先生:パターン化されているものだと、読解力によらずにできるような問題もあるでしょうね、塾も対策しますし。
O先生:何でもワンパターンで読む子は学校側としても避けたいでしょうね。以前、桜蔭の国語の問題作成に携わっていた先生が話していたのを思い出しました。「最近の受験生は文章のはじめの方だけ見て、ああ成長ね、とパターン化してこうなるだろうと決めて読むから困る」のだと。
Y先生:今年の開成のように、ジェンダーの壁に関連する話は出されるようになってきました。2015年の桜蔭もそうです。父親が櫛をひく職人で、主人公の娘は自分もやりたいと切望するものの、男の仕事だからそれはできないと言いつけられていた。娘は男の仕事の一部をその後させてもらえるようになったが、櫛とは関係のない家に嫁に行くことになった。最後の部分で、娘が父に促されて櫛をひき、その時にいっそう櫛への思いがつのる、という話です。今年の開成も、お弁当も手の込んだものでなければならない、五色そろえなきゃみたいな場面がありました。黄の卵焼きをいれないといけないというところで、お母さんが苦労する。あとでお父さんがそこまでしなくていいと伝える。そのあたりとか、性差みたいなものを固定化していないというのかな、と。現代的なあり方についても伝えていく必要を感じます。
インスタグラム、ツイッター、LINEも。説明文から物語文へ
G:現代的だな、というのは絵をインスタグラムに載せて評価されたというのもその一つでしょうか。
Y先生:奈良県にある帝塚山では今年、LINEの話が細かく出ていて、そういう時代になったのかと思いましたね。
M先生:桜蔭も文章の中でツイッターとか、フェイクニュースがありましたね。
H先生:でも、帝塚山も桜蔭も説明文ですよね、スマホとか、LINEの話とか出ていますが、物語でもLINEなりツイッターなりが意味を持ってくるのはまだ見ていないですね。
Y先生:近いうちに「LINEいじめ」とか出てくるのかもしれません。一時期、メールの返信をしないから、というので仲間外れにしたというような文章が頻出でした。気に入らない人を外す、という点で共通しているのですが、より現代的な形で出てきそうですね。
H先生:森絵都の『クラスメイツ』は中学受験でも頻出作品ですが、ネット上での仲間外れは出ていますね。これからはLINEも出てきそうですね。
※国語座談会第1回は上中下の3回にわたります。次回は7/25頃公開予定です。
書籍紹介
『ダリアの笑顔』